■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞

社会保険や労働保険に会社が加入する際、経営者の方などから「何か会社にメリットはあるの?」という質問をいただくことがあります。
皆さん、法律で決まっているから社会保険や労働保険に加入しなければならないということはご存じなのですが、なにしろ入ってからは費用が掛かるので、納得のいかない部分があるようです。いま、このページをご覧になっている方の中にも、メリットと費用を説明してほしいとお考えの方がいらっしゃるのではないでしょうか。
これから社会保険や労働保険に加入しようとお考えの方のため、私が普段、経営者の方などにご説明する内容を以下にまとめましたので、ぜひ、ご参考としていただければ幸いです。

■労災保険に加入するメリットと費用は?

1.労災保険に加入するメリットは?
―労災保険は実は事業主を守る保険といえます。

従業員を雇用して勤務してもらう際に、万が一勤務中に従業員がケガをしてしまうと大変な問題になります。労働基準法によって勤務中のケガは全て会社の責任となり、治療費は全額会社が負担することが義務づけられているからです。しかし、ケガの程度によっては治療費が大変な額になってしまいます。

そこで、国では従業員を雇用する会社が労災保険に入ることを義務づけて、従業員が必ずケガの補償を受けられるようにするとともに、会社が多額の補償で倒産しないようにすることにしました。労災保険は従業員だけでなく、実は会社を守る保険といえます。

ちなみに、会社に責任のない通勤中のケガについても労災保険の補償を受けることができ、従業員に安心して勤務してもらうことができます。

2.労災保険にかかる費用は?
―労災保険料は誰に聞いても安いといわれます。

労災保険料は通勤交通費を含む給与額に以下の保険料率を掛けたものになります。

会社負担額
労災保険料 事務系業種 給与額の0.25~0.3%
サービス業 給与額の0.25~0.3%
製造業 給与額の0.25~2.6%
運送業(港湾荷役をのぞく) 給与額の0.4~0.9%
建設業(水力発電およびずい道工事をのぞく) 給与額の0.65~1.5%

※業種ごとに保険料率が異なります。

→参考リンク 厚生労働省「労災保険率表」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000198405.pdf

労災保険の費用がかかるのはいつか?
―従業員をはじめて雇用してから50日以内になります。

労働保険料(労災保険料)の納期は以下のとおりです。

保険料の納期
初年度 保険関係の成立から50日以内
2年目以降 7月10日

※分納を行う場合は7月10日、10月31日、1月31日の各期

(初年度)

はじめて従業員を雇用したときに、労働保険(労災保険)の保険関係成立の手続きを行います。
保険関係成立と同時に年度末(3月31日)までの保険料額を見込みの給与額で計算し、労働基準監督署に申告して、50日以内に納付することになります。
この時注意するのは、手続きを行った日から50日ではなく、保険関係の成立した日、つまりはじめて従業員を雇用した日から50日以内であるということです。

(2年目以降)

2年目以降になると5月後半~6月ごろに労働保険料(労災保険料)の申告書が会社に郵送されてきますので、7月10日までに申告書を作成し、労働基準監督署へ提出します。
その際には、年度末までに支払った実際の給与額で計算した保険料額とあらかじめ見込みの給与額で計算し、納付していた保険料の差額を精算する形をとります。
また、前年度に支払った実際の給与額が当年度の見込みの給与額となり、計算した保険料の額を労働基準監督署に申告して、7月10日までに納付することになります。

雇用保険に加入するメリットと費用は?

1.雇用保険に加入するメリットは?
一定の要件を満たした場合の助成金があります。

雇用保険のもっとも大きな役割としては、従業員が退職した後の無収入状態を失業給付(失業保険)によって補償するものです。
会社で雇用保険の手続きを行っていないと退職した従業員は失業給付が受けられず、あとから会社にクレームがくることがあります。そうなると、期間を遡って雇用保険に加入する手続きを行うか、失業給付に相当する額の支払いを行うこともあります。
雇用保険からは、賃金が減額される高年齢者や賃金を受けられない育児休業者、介護休業者に対する賃金の補填も行われます。
会社が受けられるものとしては、一定の要件を満たした場合の助成金があります。くわしい要件については「中小企業のための雇用助成金一覧」をご確認ください。
→参考リンク 「中小企業のための雇用助成金一覧」
https://kigyo-joseikin.com/

2.雇用保険にかかる費用は?
―雇用保険料は年々安くなってきました。

会社負担額 従業員負担額
雇用保険料 一般の業種 給与額の0.6% 給与額の0.3%
建設業 給与額の0.8% 給与額の0.4%
農林水産、清酒製造業 給与額の0.7% 給与額の0.4%

※ 園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖および特定の船員を雇用する事業については一般の業種の率が適用されます。

雇用保険の費用がかかるのはいつか?
―原則、労災保険料と同じタイミングで納付する形になります。

労働保険料(雇用保険料)の納期は以下のとおりです。

保険料の納期
初年度 保険関係の成立から50日以内
2年目以降 7月10日

※分納を行う場合は7月10日、10月31日、1月31日の各期

(初年度)

はじめて従業員を雇用したときに、労働保険(雇用保険)の保険関係成立の手続きを行います。
保険関係成立と同時に年度末(3月31日)までの保険料額を見込みの給与額で計算し、労働基準監督署に申告して、50日以内に納付することになります。
この時注意するのは、手続きを行った日から50日ではなく、保険関係の成立した日、つまりはじめて従業員を雇用した日から50日以内であるということです。

(2年目以降)

2年目以降になると5月後半~6月ごろに労働保険料(労災保険料)の申告書が会社に郵送されてきますので、7月10日までに申告書を作成し、労働基準監督署へ提出します。
その際には、年度末までに支払った実際の給与額で計算した保険料額とあらかじめ見込みの給与額で計算し、納付していた保険料の差額を精算する形をとります。
また、前年度に支払った実際の給与額が当年度の見込みの給与額となり、計算した保険料の額を労働基準監督署に申告して、7月10日までに納付することになります。

(従業員負担額の徴収)

雇用保険の従業員負担分の保険料は年度末までの分を会社が立て替えて納付し、以降給与を支払う際に源泉徴収を行ってつど回収していく形になります。

■健康保険に加入するメリットと費用は?

1.健康保険に加入するメリットは?
―家族も加入でき、保障が充実しています。

健康保険が国民健康保険ともっとも大きく違う点は、家族(被扶養者)の分の保障まで含まれている点です。
また、従業員が病気やケガで休業して無給の場合に、休業4日目からの給与額のおよそ3分の2の保障を受けられる点があります。女性の場合はさらに、産前産後休業で無給の場合に給与額のおよそ3分の2の保障を受けられる点もあります。

2.健康保険にかかる費用は?
―40歳以上になると介護保険料が加算されます。

会社負担額 従業員負担額
健康保険料 下記以外 標準報酬額の4.45% 標準報酬額の4.45%
40歳以上65歳未満 標準報酬額の5.815% 標準報酬額の5.815%

※各々東京都の場合で、都道府県ごとに異なります。

健康保険は賃金額に直接保険料率を掛ける労災保険、雇用保険とは異なり、賃金額ごとに決められる「標準報酬」に保険料率を掛けて保険料を計算しています。標準報酬については、リンク先の保険料額表をご覧ください。

→参考リンク 全国健康保険協会「平成31年度保険料額表」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3150/h31/h31ryougakuhyou4gatukara

健康保険の費用がかかるのはいつか?
―すべて当月分を翌月末に納付する形になります。

健康保険料の納期は以下のとおりです。

保険料の納期
当月分を翌月の末日まで

(当初)

社会保険新規適用(加入)の手続きを行うと、翌月ごろから(前月分の)保険料の納付書が会社に郵送されてきます。納期は各々当月分が翌月末、たとえば、4月1日に社会保険(健康保険)に加入した場合、一般的には、5月末までとなります。
手続きの遅れにより過去にさかのぼって社会保険(健康保険)に加入する場合、過去(すでに納期を経過した月)分の保険料を一気に精算する形になりますので、ご注意ください。

(2ヶ月目以降)

毎月、前月分の保険料の納付書が会社に郵送されてきます。過去にさかのぼって社会保険(健康保険)の手続きを行う場合、過去(すでに納期を経過した月)分の保険料を一気に精算する形になりますので、ご注意ください。

(従業員負担額の徴収)

健康保険の従業員負担分の保険料は通常、入社月の翌月から毎月給与を支払う際に源泉徴収を行って回収し、会社負担分とあわせて納付していく形になります。
たとえば、4月1日に社会保険(健康保険)に加入した場合、一般的には、5月に支給する給与から(4月分の)健康保険料の徴収を行い、4月分の保険料を5月末までに納付することになります。

■厚生年金保険に加入するメリットと費用は?

1.厚生年金保険に加入するメリットは?
―求人を行う際には必ず加入しなければなりません。

厚生年金はその名の通り、従業員が65歳になったとき、重い障害になったとき、配偶者を残して亡くなったときなどに、それまでの加入月数や報酬(支払った保険料)額に応じた額の年金や一時金を受けることができる制度です。
国民年金の保険料と比べると高く感じられますが、厚生年金の保険料を支払うことで、加入者本人の厚生年金と国民年金、配偶者の国民年金とあわせて3本の年金を受けられるようになります。
会社としてはそれなりのコストが発生しますが、従業員に対する福利厚生と考えられます。
また、ハローワークで求人を出す際に、社会保険(厚生年金)に加入していないと求人が受け付けられない場合があるので、その際には必ず加入する必要があります。

2.厚生年金保険にかかる費用は?
―お世辞にも安いとはいえません。

会社負担額 従業員負担額
厚生年金保険料 標準報酬額の9.15% 標準報酬額の9.15%

厚生年金は賃金額に直接保険料率を掛ける労災保険、雇用保険とは異なり、賃金額ごとに決められる「標準報酬」に保険料率を掛けて保険料を計算しています。標準報酬については、リンク先の保険料額表をご覧ください。

→参考リンク 全国健康保険協会「平成31年度保険料額表」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3150/h31/h31ryougakuhyou4gatukara

厚生年金保険の費用がかかるのはいつか?
―すべて当月分を翌月末に納付する形になります。

厚生年金保険料の納期は以下のとおりです。

保険料の納期
当月分を翌月の末日まで

(当初)

社会保険新規適用(加入)の手続きを行うと、翌月ごろから(前月分の)保険料の納付書が会社に郵送されてきます。納期は各々当月分が翌月末、たとえば、4月1日に社会保険(厚生年金)に加入した場合、一般的には、5月末までとなります。
手続きの遅れにより過去にさかのぼって社会保険(厚生年金)に加入する場合、過去(すでに納期を経過した月)分の保険料を一気に精算する形になりますので、ご注意ください。

(2ヶ月目以降)

毎月、前月分の保険料の納付書が会社に郵送されてきます。過去にさかのぼって社会保険(厚生年金)の手続きを行う場合、過去(すでに納期を経過した月)分の保険料を一気に精算する形になりますので、ご注意ください。

(従業員負担額の徴収)

厚生年金の従業員負担分の保険料は通常、入社月の翌月から毎月給与を支払う際に源泉徴収を行って回収し、会社負担分とあわせて納付していく形になります。
たとえば、4月1日に社会保険(厚生年金)に加入した場合、一般的には、5月に支給する給与から(4月分の)健康保険料の徴収を行い、4月分の保険料を5月末までに納付することになります。

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―会社で社会保険に入った方が保険料が安くなる場合があります。

まだ社会保険に加入していない経営者の方などからは、毎月の社会保険料を心配する声を多くいただきます。
保険料率は健康保険料が報酬の4.45%づつを会社と従業員で折半、厚生年金保険料が報酬の9.15%づつを会社と従業員で折半になります。介護保険料まで入れると会社と従業員にかかる保険料は約15%となり、確かに高いといえます。
しかし、従業員が個人で国民健康保険と国民年金に入るにも、毎月保険料がかかります。
国民年金保険料は毎月16,410円(平成31年度)と一定ですが、国民健康保険料は前年度の住民税額によって決まる(詳しくはお住まいの市区町村のホームページをご覧ください)ため、自分はそんなに所得が高いほうでないと思っていても、高い国民健康保険料を支払わなければならないことがあります。

保険料支払い合計額の比較

健康保険+国民年金(市区町村) 健康保険+厚生年金(会社)
健康保険料 所得額-330,000円×9.49%(介護保険対象者は11.25%)+加入者数×52,200円
※東京都世田谷区の場合
標準報酬額の8.9%(介護保険対象者は11.63%)
※被扶養者の分を含む
年金保険料 月額16,410円 標準報酬額の18.3%
※被扶養配偶者の分を含む

被扶養配偶者がいるケースですと、健康保険料が折半前の額でおよそ同じ程度になります。年金保険料は標準報酬額が180,000円を上回ると、保険料が定額の国民年金の方が安くなってきます。
ただし、これは負担の折半を考慮しないものですので、折半後ですと、倍の360,000円程度でバランスすることになります。
お手元の国民年金保険料や国民年金保険料の納付書と健康保険・厚生年金の保険料(資料)をぜひ比較してみてください。
もしかすると、会社で入ったほうが今より安くなるかもしれません。

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