■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞
現在は、高年齢者雇用安定法により、定年の年齢を65歳未満と定めている会社は原則として希望者全員を63歳まで継続して雇用することが義務づけられています(2022年4月1日以降は64歳)。
定年後の継続雇用は必ずしも同一の労働条件である必要はありません。
嘱託やパート、契約社員として再雇用を行い、定年前と異なった労働条件、たとえば、仕事の責任を定年前より軽くする、勤務日数を減らす、賃金の額を下げて雇用する、といったことも可能とされます。
こうした継続雇用を奨励するために雇用保険の高年齢雇用継続給付および高年齢再就職給付金という制度があります。
60歳から65歳までの間の賃金が、60歳以前の賃金と比較して低下した場合、本人が雇用保険から補てんを受けることができるものです。
■高年齢雇用継続給付金支給申請・手続きが可能となる要件は?
高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の各月の賃金が60歳時点の賃金の61%以下の場合は、各月の賃金の15%相当額の支給となり、61%超75%未満の場合は、割合に応じて支給額が逓減していきます。
以下のすべての要件を満たす場合に高年齢雇用継続給付金支給申請の手続きが可能となります。
- 60歳以上65歳未満で、雇用保険の被保険者である。
- 雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある。
※この期間に関し、雇用保険の失業給付を受けていないこと。 - 60歳時点の賃金と比較して、賃金が75%未満かつ472,200円未満となっている。
- 高年齢雇用継続給付として計算した額が1,984円(最低限度額)以上である。
■高年齢再就職給付金支給申請・手続きが可能となる要件は?
高年齢再就職給付金は、60歳以上65歳未満の各月の賃金が60歳以前に失業給付(基本手当)の日額を計算する基礎となった賃金と比較し、61%以下の場合は、各月の賃金の15%相当額の支給となり、61%超75%未満の場合は、割合に応じて支給額が逓減していきます。
なお、再就職した際の失業給付(基本手当)の残日数が100日以上の場合は高年齢再就職給付金の受給期間は最長1年、200日以上の場合は最長2年となります。
以下のすべての要件を満たす場合に高年齢再就職給付金支給申請の手続きが可能となります。
- 60歳以降に再就職し、1年を超えて引き続き雇用されることが確実である。
※この就職について、再就職手当を受けていないこと。 - 再就職した際に失業給付(基本手当)を受給しており、残日数が100日以上であった。
- 失業給付(基本手当)にかかる雇用保険の被保険者であった期間が5年以上であった。
- 60歳以上65歳未満で、雇用保険の被保険者である。
- 失業給付(基本手当)の基準となった賃金と比較して、賃金が75%未満となっている。
■高年齢雇用継続給付金支給申請の手続き・期限はいつまで?
・雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書・(初回)高年齢雇用継続給付金支給申請書
→ 最初に支給を受けようとする支給対象期間(賃金が75%未満に低下した月)の初日から起算して4ヶ月を経過する日の属する月の末日までにハローワークへ
※六十歳到達時等賃金証明書については60歳到達時から10日以内が提出期限とされていますが、初回の高年齢雇用継続給付金支給申請書の申請期限までに提出すれば差し支えありません。
・高年齢雇用継続給付支給申請書
→ 指定された期間にハローワークへ
■高年齢再就職給付金支給申請の手続き・期限はいつまで?
・高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付金支給申請書
→ 最初に支給を受けようとする支給対象期間(賃金が75%未満に低下した月)の初日から起算して4ヶ月を経過する日の属する月の末日までにハローワークへ
※高年齢雇用継続給付受給資格確認票については再就職時の雇用保険被保険者資格取得届と併せて提出するものとされていますが、初回の高年齢雇用継続給付金支給申請書の申請期限までに提出すれば差し支えありません。
・高年齢雇用継続給付支給申請書
→ 指定された期間にハローワークへ
執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―在職老齢年金を受けられる場合、支払いを抑えて手取りを維持する運用が可能です。
一般的に厚生年金保険法による老齢厚生年金は65歳以降の支給となりますが、一定の要件を満たす場合、60歳以上65歳未満の間に「在職老齢年金」が支給されます。
在職老齢年金については賃金額が多い場合、または高年齢雇用継続給付を受給する場合に一部減額(最大6%)されますが、賃金額の設定を考慮することで、会社から支払う賃金を抑えながら、本人の手取りを維持するような運用も可能です。
特別支給の老齢厚生年金(在職老齢年金)の支給要件
- 男性の場合、昭和36年4月1日以前に生まれたこと。
- 女性の場合、昭和41年4月1日以前に生まれたこと。
- 老齢基礎年金の受給資格期間(10年)があること。
- 厚生年金保険等に1年以上加入していたこと。
- 60歳以上であること。
従業員の60歳以降の賃金が低下する時の手続き
よくある問題と解決策
Case1
高年齢雇用継続給付金の申請時期を逃してしまい、受給できなくなってしまった。
解決策
決められた期間に申請を行わねばならないため、時期の管理を行う必要があります。
Case2
新たに雇用した61歳の従業員から前職より賃金が低下していると言われたが、高年齢再就職給付金を受給できるのかが不明だ。
解決策
受給資格があるかについてはハローワークに高年齢雇用継続給付受給資格確認票を提出してみるのがもっとも確実です。再就職手当の支給を申請すると高年齢再就職給付金が受けられなくなるため、ご注意ください。
Case3
月によって賃金額が変動するが、高年齢雇用継続給付の額はどうなるのか。
解決策
毎月支給額が変動します。60歳以上65歳未満の各月の賃金が60歳時点の賃金の61%以下の場合は、各月の賃金の15%相当額の支給となり、61%超75%未満の場合は、割合に応じて支給額が逓減していきます。
Case4
在職老齢年金を受けている場合、高年齢雇用継続給付金は受給しない方がよいのか。
解決策
高年齢雇用継続給付金の受給により支給停止される年金額は、最高で賃金(標準報酬月額)の6%相当額なので、最高で賃金の15%にあたる高年齢雇用継続給付金を受給する方が得となるケースは多くあります。