■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞

建設業は労災事故が発生しやすい業種でもあり、保険関係の取り扱いが他の業種と大きく異なります。
現場に入るには法律上義務付けられている手続きをすべて行わなければならないのはもちろんとして、役員や一人親方など、通常なら労災保険の対象とならない作業員についても、発注者や元請けの要請により労災保険に加入させなければならない場合が多々出てきます。
とにかく、労働保険(労災保険)の手続きを行って労働保険番号を報告しないと作業員を現場に入場させないという取り扱いが一般的に行われているので、建設業を行う際は労働保険(労災保険)の手続きをすぐに行う必要があります。

■元請け業者に義務付けられる手続きと期限は?
―労災保険関係成立票はすべての現場に掲示が必要です。

■工事を開始する場合

・労働保険 保険関係成立届(有期)
工事開始から10日以内に労働基準監督署へ
・労働保険 概算保険料申告書
工事開始から50日以内に労働基準監督署へ

■工事を終了する場合

・労働保険 確定保険料申告書
工事終了から50日以内に労働基準監督署へ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、労働保険事務組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

ただし、請負金額が1億8,000万円未満、または概算保険料が160万円未満の工事については、年1回の手続きに一括して届け出を行うことができます。

その場合の手続きは以下のとおりです。

■工事を開始する場合

・労働保険保険関係成立届(継続)
工事開始から10日以内に労働基準監督署へ
・労働保険概算保険料申告書
工事開始から50日以内に労働基準監督署へ

■毎年度の報告

・労働保険(概算)確定保険料申告書
毎年6月1日~7月10日に労働基準監督署へ
・労働保険一括有期事業報告書
申告書と同時に労働基準監督署へ
・一括有期事業総括表
申告書と同時に労働基準監督署へ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、労働保険事務組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。
のみの表記は電子申請の手続きには対応せず、書面での手続きとなります。

■下請け業者に義務付けられる手続きと期限は?
―現場に入るには、国の労災保険に加入することが重要です。

■発注者、元請けから求められた場合

・労働保険 保険関係成立届
現場に入場する際に労働基準監督署へ
・労働保険 概算保険料申告書
保険関係成立日から20日以内に労働基準監督署へ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、労働保険事務組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

※ 下請けのみで元請けがない場合、法律上は現場の労働保険手続きを行う必要はありません。しかし、発注者や元請けの要請により、労働保険番号がない業者の入場を認めない現場が多くあります。 また、下請けの社長や役員の無保険状態を解消するため、労災保険特別加入のために便宜的に労働保険手続きを行うのが一般的です。

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―下請けの社長や一人親方は労災保険特別加入を行います。

元請けの労災保険で補償が受けられるのは、元請けの従業員、下請け・孫請けなどの従業員(役員や家族労働者をのぞく)に限ります。元請けや下請け・孫請けの社長や役員などが現場に入る場合は、必ず労災保険特別加入(中小事業主)の手続きを行ってください。
また、一人親方(個人事業主)の方も元請けの労災保険の補償の対象外となるため、必ず労災保険特別加入(一人親方)の手続きを行ってください。

建設業者の労働保険(労災保険)手続き
よくある問題と解決策

Case1

下請け会社の社長が事故に遭ったが、労災保険を使うことができない。

決策

3割負担となりますが、健康保険(国民健康保険)を使える場合があるので、検討します。また、あらかじめ、下請け会社の方で便宜的に現場の労災保険手続きを行い、中小事業主として労災保険特別加入の手続きを行っておかなければなりません。

Case2

一人親方が事故に遭ったが、労災保険を使うことができない。

決策

3割負担となりますが、国民健康保険を使える場合があるので、検討します。また、あらかじめ、一人親方の労災保険特別加入手続きを行っておかなければなりません。

Case3

現場に出ている親族が事故に遭ったが、労災保険を使うことができない。

解決策

3割負担となりますが、健康保険(国民健康保険)を使える場合があるので、検討します。また、あらかじめ、中小事業主として労災保険特別加入の手続きを行っておかなければなりません。

Case4

手弁当で手伝いに来ていた知人が事故に遭ったが、労災保険を使うことができない。

解決策

3割負担となりますが、健康保険(国民健康保険)を使える場合があるので、検討します。労災保険の対象とはならないので、民間の保険に加入するのもよいでしょう。

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