■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞

従業員本人や被扶養者である妻が出産した場合には、健康保険からさまざまな特典を受けることができます。
特典としては、まず、従業員が無給の産前産後休業を取得した時には、手続きを行うことで、産前休暇は予定日の42日(双子以上は98日)前から、産後休暇は出産日の翌日から56日後まで、標準報酬日額の3分の2にあたる出産手当金が支給されます。
また、社会保険料が、産前休業に入った月から産後休業が終了した月の前月まで、全額免除となります。
従業員分のみならず会社負担分についても全額免除となりますので、負担なく従業員に産前産後休業を取得してもらうことができます。

■従業員本人が産前産後休暇を取得するときの手続き・期限はいつまで?

従業員が産前産後休業(出産予定日前42日および出産日の翌日以後56日)を取得し、報酬を受けないときは、健康保険から、1日につき標準報酬日額(標準報酬月額の30分の1)の3分の2にあたる出産育児一時金が受けられます。その際の手続きは以下の通りです。

・健康保険出産手当金支給申請書
産前休業開始日から2年以内に健康保険協会へ
※保険給付にかかる請求のため、2年の時効となります。

電子申請の手続きには対応せず、書面での手続きとなります。

■出産育児一時金請求の手続き・期限はいつまで?

従業員または被扶養者である妻が出産したときは、健康保険から、子供1人につき420,000円の出産育児一時金が受けられます。その際の手続きは以下の通りです。

・健康保険 (家族)出産育児一時金等支給申請書
出産日の翌日から2年以内に健康保険協会へ(出産前に病院に申し出ることによりこの手続を省略し、病院への出産費用の支払に充てることができます。)
※保険給付にかかる請求のため、2年の時効となります。

なお、病院への出産費用の支払いに充てた場合で出産費用が420,000円に満たない場合は、後日、以下の書類を提出して差額の支払いを申請します。

・健康保険 (家族)出産育児一時金内払金支払依頼書・差額申請書
出産日の翌日から2年以内に健康保険協会へ

電子申請の手続きには対応せず、書面での手続きとなります。

■産前産後休業休暇中の保険料免除を受けるときの手続き・期限はいつまで?

従業員が産前産後休業(出産予定日前42日および出産日の翌日以後56日)を取得するときは、社会保険料が会社負担分・従業員負担分とも免除されます。その際の手続きは以下の通りです。

・健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書
産前休業開始後、産後休業期間終了前に年金事務所へ
※法定の提出期限はありませんが、産後休業期間を過ぎると手続きが煩雑になります。

出産日が予定とずれるなど、産前産後休業の日程に変更があるときは同じ用紙を「健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者変更(終了)届」として提出し、変更の手続きを行います。

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―保険料免除の手続きは産後に行う方が効率的です。

産前産後休業取得者申出書を産前に提出すると、実際の出産日が予定日と異なった場合に再度産前産後休業取得者変更届を産後に提出する必要があります。
そこで、実際の出産日後に産前産後休業取得者申出書を提出すれば、手続きは1回ですみます。

■社会保険の被扶養者(異動)手続き・期限はいつまで?

子供を被扶養者とする手続きも必要となります。

・健康保険被扶養者(異動)届
事実発生から5日以内に年金事務所へ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、健康保険組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―昇給または降給が保険料に反映されるまでタイムラグがあります。

産前産後休業期間中に報酬の一部が支払われる場合、出産手当金は標準報酬日額の3分の2との差額が支給されます。
産前休業の期間中は労働基準法上、休業を取らず働いてもよいとされますが、労働時間の一部を勤務して報酬を受ける場合は差額の支給となってしまうため、むしろしっかり休んだ方が得ということはいえます。
ちなみに、産前休業の期間中に有給休暇を消化するならば、報酬が満額支払われることにより出産手当金の額を上回るため、従業員にも会社にもメリットがあると考えます。

社会保険の標準報酬月額変更手続き
よくある問題と解決策

Case1

病院から出産前に出産育児一時金等支給申請書を渡され、記載して提出するように言われた。

決策

出産育児一時金等支給申請書(受取代理用)という用紙であれば、健康保険から支給される出産育児一時金が医療機関に支払われ、出産費用に充てられるものですので、提出していただきます。出産費用が420,000円に満たない場合は、後日差額を申請することができます。

Case2

双子を妊娠したということで、出産予定日の98日前から産前休業に入っているが、出産手当金および社会保険料免除はその期間分受けられるのか。

決策

はい、受けられます。なお、産後休業については通常と同じく出産日の翌日から56日となります。

Case3

出産予定日の半年前から産前休業に入っている従業員がいるが、出産手当金および社会保険料免除は受けられるのか。

解決策

出産手当金の支給および社会保険料免除は、出産予定日前42日(双子の場合は98日)前からとなります。それまでの期間は有給休暇を取得してもらうとよいでしょう。

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