■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞

従業員が会社を退職する際には会社で手続きを行い、社会保険(健康保険・厚生年金)の資格を喪失します。
その後、切れ目なく他の社会保険の適用事業所に再就職するのであれば、再就職先で加入となりますが、そうでなければ、本人が市区町村の窓口へ行き、国民健康保険・国民年金への加入手続きを行うことになります。
ところが、2ヶ月以上社会保険に加入していた従業員が退職後も会社の健康保険に継続して加入することを希望する場合には、本人が手続きを行うことで、例外として2年を上限とし、会社の健康保険に継続して加入することができる制度があります。
退職者は国民健康保険と健康保険の任意継続を選択できるということになりますが、一般的にはより保険料の安いほうを選択することが多いようです。
健康保険は被保険者となる一人分の保険料で被扶養者まで保障を受けられるため、とくに家族が多い場合には任意継続被保険者を選択して手続きを行う方が有利になるケースが多くなります。
会社としては直接責任はないといえますが、退職する従業員にこうした制度の存在を教えてあげてもよいのではないでしょうか。

■健康保険任意継続被保険者となることのできる従業員の範囲

退職日前に社会保険の被保険者期間が2ヶ月以上であること。

■健康保険任意継続被保険者となることのできる期間

退職後2年間が加入できる上限となる。

・社会保険の適用事業所に再就職した場合は資格を喪失する。

75歳になった場合は資格を喪失する。

■健康保険任意継続被保険者となった際のルール

・在職中は会社が半額負担していた健康保険料を本人が全額負担する。

・在職中は報酬から天引きされていた健康保険料を本人が直接納付する。
※保険料を1回でも納め忘れると、任意継続被保険者の資格を喪失してしまいます。

・扶養している家族を引き続き被扶養者とできる。

在職中の最後の標準報酬月額が280,000円以上の場合、保険料は280,000円として計算される。
※高所得者は有利になります。

・傷病手当金、出産手当金の制度はない(資格喪失後の継続給付は可)。

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―厚生年金の任意継続制度はありません。

国民健康保険の保険料は前年の所得(住民税の計算の基礎となる額)から算出され、市区町村ごとに異なります。健康保険料と比較検討するため、退職前にあらかじめ確認しておくのが良いでしょう。
ちなみに、厚生年金には任意継続被保険者という制度はなく、退職後は例外なく国民年金(第1号)被保険者となります。国民年金の保険料は報酬額にかかわらず一定(月額16,410円)なので、厚生年金保険料と比較して安くなったと感じる方も多いかと思います。

■健康保険の任意継続被保険者の加入手続き・期限はいつまで?

・健康保険任意継続被保険者資格取得申請書
退職日の翌日から20日以内に本人の住所を管轄する全国健康保険協会支部へ(遅れると加入できません)

電子申請の手続きには対応せず、書面での手続きとなります。

従業員が退職後に継続して
健康保険に加入する時に必要な健康保険の手続き
よくある問題と解決策

Case1

社会保険の資格喪失手続きを行ったが、資格喪失確認通知書が送られてこない。任意継続の手続きはどうしたらよいか。

決策

資格喪失手続きが受理された時点で任意継続被保険者資格取得の手続きが可能です。書面または電子申請で手続きが受理された際の控えがあれば、スムーズに手続きを行うことができます。

Case2

退職する従業員から国民健康保険と任意継続被保険者、どちらが保険料が安いかと聞かれた。

決策

国民健康保険料については前年の所得額がわかれば、市区町村に問い合わせてみてもよいでしょう。あるいは、ホームページに保険料の計算方法が記載されています。任意継続被保険者の保険料は現在の2倍となります。ただし、標準報酬月額が280,000以上の場合は280,000円で頭打ちとなります。

Case3

1年ほど傷病手当金を受けているが、退職して任意継続保険者となった場合はどうなるのか。

解決策

資格喪失後の継続給付として、残る期間を上限に傷病手当金を受給できます。ちなみに、国民健康保険の被保険者となっても継続給付は同様に受給できます。

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