■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞
社会保険・労働保険の制度において共通するのは、原則として事業所単位で保険関係が成立し、手続きを行うということです。
これによると、事業所(支店)を設置するごとに保険関係成立・新規適用の手続きを行い、以降は事業所(支店)ごとに個別に社会保険・労働保険の手続きを行わなければなりません。
例外として事務手続きを簡略化するために認められるのが、勤怠の集計および給与計算を本社などで一括して行っている場合に手続きを行うことで、労働保険の保険関係を本社などに一括して取り扱うことができます。
注意したいのは、事業所(支店)がそもそも一つの経営組織として独立していない場合には、社会保険・労働保険の適用事業所とはならないので、事業所(支店)を設置した際に別段の手続きを行う必要がないということです。
判断が難しい場合には雇用保険の「事業場非該当承認申請調査書」を提出し、ハローワークの判断を仰ぎます。
労働保険の適用事業所となる基準は雇用保険と同様、社会保険の適用事業所となる基準は雇用保険より狭いので、これをもって一応法的な根拠を得ることにしてよいでしょう。
■事業所(支店)が以下に当てはまる場合には、労働保険・雇用保険・社会保険の適用事業場となります。
- (労働保険・雇用保険)
-
- 場所的に他の(主たる)事業所から独立している。
- 一定期間継続し、従業員が複数人常駐している。
- 人事、経理、経営または業務上の指導監督、働き方などにおいて(ある程度)独立して行っている。
- (社会保険)
-
- 採用、勤怠管理、給与計算など独立して人事管理を行っている。
■事業所(支店)が以下に当てはまる場合には、労働保険(労災保険)・雇用保険の適用事業場となりません。
- (労働保険・雇用保険)
-
- 場所的に他の(主たる)事業所と同一または近接している。
- 短期間あるいは臨時的に設置される場所であるか、従業員が複数人常駐していない。
- 人事、経理、経営または業務上の指導監督、働き方などにおいて独立性がない。
- (社会保険)
-
- 採用、勤怠管理、給与計算など独立して人事管理を行っていない(本社などで行っている)。
明らかに適用事業場とならない場合は、労働保険・雇用保険・社会保険は本社などで一括して適用となるため、手続きは不要となります。
適用事業場となるかの判断が難しい場合は、雇用保険の事業場非該当承認申請調査書をハローワークに提出し、判断を受けます。
■支店で雇用保険の事業場非該当承認を受けるための手続きと期限は?
・雇用保険 適用事業所非該当承認申請書
→ 事業所非該当の承認を受けようとするときにハローワークへ
事業所(支店)が労働保険・雇用保険・社会保険の適用事業場となる場合は、原則通り、保険関係成立・新規適用の手続きを行います。
■支店で労働保険の保険関係を成立する際の手続きと期限は?
(一般的な業種)
・労働保険 保険関係成立届
→ 該当から10日以内に労働基準監督署へ
・労働保険 概算保険料申告書
→ 該当から50日以内に労働基準監督署へ
(建設業の場合)
・労働保険 保険関係成立届
(事務所労災分)→ 該当から10日以内に労働基準監督署へ
(雇用保険分)→ 該当から10日以内にハローワークへ
・労働保険 概算保険料申告書
(事務所労災分)→ 該当から20日以内に労働基準監督署へ
(雇用保険分)→ 該当から20日以内にハローワークへ
※ 建設業については保険の扱いが特殊で、労災保険と雇用保険の手続きを分けて行います。
なお、労働保険(労災保険)の適用事業場となる場合において、給与計算を本社などで行っている場合は、労働保険継続事業一括申請の手続きを行うことによって、労働保険料などの取り扱いを本社で一括して行うことができます。
■支店の労働保険の保険関係を本社に一括する手続きと期限は?
・労働保険 継続事業一括事業申請書
→ 労働保険保険関係成立届の提出と同時に労働基準監督署へ
■支店で雇用保険の適用事業所を設置する際の手続きと期限は?
(従業員が他の支店から転勤してくる場合)
・雇用保険 適用事業所設置届
→ 該当から10日以内にハローワークへ
・雇用保険 被保険者転勤届
→ 該当から10日以内にハローワークへ
(従業員を新規に雇用する場合)
・雇用保険 適用事業所設置届
→ 該当から10日以内にハローワークへ
・雇用保険 被保険者資格取得届
→ 該当から10日以内にハローワークへ
■事業所(支店)での手続きを簡略化するための手続き・まとめ
労働保険(労災保険) | 雇用保険 | |
---|---|---|
手続きの名称 | 労働保険継続事業一括認可申請書 | 事業場非該当承認申請調査書 |
手続きの効果 | 労働保険料の申告、納付を本社で一括して行うことができる | 雇用保険の適用事業所とならないことを確認できる |
手続きを行ったほうがよい場合 | 支店を設置し、本社で給与計算などを行うこととした場合 | 支店を設置し、適用事業場となるかの判断が難しい場合 |
※社会保険にも「一括適用承認申請書」という適用の一括を申請する手続きがありますが、これはすでに支店で新規適用を行っており、適用事業所となっている場合の手続きとなります。新規適用の手続きを行っていない場合は雇用保険の事業場非該当承認申請調査書をもってこれに代えることとして差し支えありませんが、ご心配であれば、年金事務所にご確認ください。
■支店で社会保険の新規適用を行う際の手続き・期限はいつまで?
―法人設立後、すぐに必要になります。
(従業員が他の支店から転勤してくる場合)
・健康保険・厚生年金保険 新規適用届
→ 法人設立後、10日以内に年金事務所へ
・健康保険・厚生年金保険 資格喪失届
→ 新規適用届の提出前に年金事務所へ
・健康保険・厚生年金保険 資格取得届
→ 新規適用届と同時に年金事務所へ
※他の事業場での資格喪失手続きを行ったうえで、資格取得手続きを行います。
(従業員を新規に雇用する場合)
・健康保険・厚生年金保険 新規適用届
→ 法人設立後、10日以内に年金事務所へ
・健康保険・厚生年金保険 資格取得届
→ 新規適用届と同時に年金事務所へ
執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―敢えて個別に保険関係を成立させる場合もあります。
支店などでの手続きはなるべく本店に一括化するのが効率的ですが、独立採算制などを取っている場合などにおいては一つの経営組織として独立しているともいえ、敢えて個別に保険関係を成立させようとする場合もあります。
事業場単位で保険関係を成立というのが、社会保険・労働保険の原則ですので、このような考え方も差し支えないと考えます。
支店を設置した時に行うべき手続き
よくある問題と解決策
Case1
支店の統廃合にともない、本店へ社会保険や労働保険の業務を一括したい。
解決策
一つの経営組織としての独立性を失う状況になれば、本店で一括して手続きを行うことになります。なお、給与計算業務を本社で一括して行っていれば、労働保険の手続きを本社にまとめることができます。
Case2
自宅勤務者の自宅において労働保険、社会保険の手続きを行う必要があるのか。
解決策
いわゆるリモートワークとして別の場所から管理を受けているのであれば、経営組織として独立しているとは言えないので、本社などで一括して手続きを行うことになります。
Case3
地方のマンションを借りてサテライトオフィスとしているが、労働保険、社会保険の手続きを行う必要があるのか。
解決策
人事、経理、経営または業務上の指導監督、働き方などにおいて独立性があるかどうか、通常の支店と同様に判断します。たとえば、1~2名で他の場所から随時指示を受けながら勤務をしている場合は、適用事業所とはなりません。