■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞

最近の労働基準監督署の調査では、「働き方改革」に伴ってか、残業代の未払いや長時間労働に対する是正勧告や指導がとくに厳しくなっており、労働契約書や出勤簿、賃金台帳などの記載内容まで細かく指摘されるようになってきました。
労働基準監督署の調査が行われやすい会社、労働基準監督署が調査の結果行う是正勧告や指導などについては下記でご説明しています。
是正勧告や指導に従わず、あるいは書類の隠ぺいや改ざんを行い、悪質とされると、事業主(法人・社長)に罰金が課されたり、会社名を公表されることもあるので、調査に対しては誠実に臨まねばなりません。
多くの方が労働基準監督署の調査には不慣れであり、調査の際には慌てて労働基準監督署側の言うことを鵜呑みにしてしまいがちです。
しかし、調査で指摘を受けた点には積極的に会社側の意見を主張していくことで、最小限の対応で切り抜けられる場合があります。
労働基準監督署の調査の対応については、知識・実績豊富な東京人事労務ファクトリーへご相談ください。

■労働基準監督署の調査が行われやすい会社とは?

・労働基準法などの違反が多く報告された業種
→ 近年は労働基準法などの法違反が多い業種に対象を絞り、年間重点として抜き打ち調査が行われています。

・従業員、または元従業員などから申告があったとき
→ 従業員、または元従業員から残業代の未払いに関する申告が出されることがほとんどです。会社側としては根拠となる書類を示して主張を行っていきます。

・「労働条件自主点検表」の提出時に明らかに法違反があるとき
→ 労働基準監督署または委託団体から送付される労働条件自主点検表を提出(任意)した際、明らかに法違反があるときには調査が行われることがあります。

・36協定の届け出を行っているが、特別条項による労働時間が長いとき
→ 特別条項による労働時間が月に80時間を超える場合、長時間労働による過労の恐れありとして、労働基準監督署の調査が行われる可能性が高くなります。

・裁量労働制を採用し、届け出を行っているとき
→ 専門業務型裁量労働制、または企画業務型裁量労働制の届け出を行っている場合、運用が適切に行われているか、労働基準監督署の調査が行われる可能性が高くなります。

・高度プロフェッショナル制度を採用し、届け出を行っているとき
→ 高度プロフェッショナル制度の届け出を行っている場合、運用が適切に行われているか、労働基準監督署の調査が行われる可能性が高くなります。

■労働基準監督署の調査に応じない場合はどうなる?

労基署の調査を行う労働基準監督官は、労働法令遵守の指導や違反行為の取締りの為、法律により次に掲げる権限を賦与されています。

  • 事業所及びその附属建設物への立入調査権
  • 帳簿・書類、証拠物件などの提出要求権
  • 事業主や労働者に対する尋問権、報告命令権、出頭命令権
  • 事業所の附属寄宿舎に関する即時処分権

※労働基準監督署の全ての職員に上記の権限が賦与されている訳ではありません。

理由なくこれを拒み、妨げた場合には、労働基準法第120条により事業主(法人・社長)を30万円以下の罰金に処する、および労働安全衛生法第120条により、事業主(法人・社長)を50万円以下の罰金に処するとされています。

■労働基準監督署の調査による「是正勧告」と「指導」の内容とは?

・明確に法違反があり、改善が必要と認められた場合
…是正勧告書を渡され、指定期日までに改善のうえ、報告をすることになる。

・明確に法違反があるとはいえないが、改善が必要と認められたる場合
…指導票を渡され、指定期日までに改善のうえ、報告をすることになる。

是正勧告の対象となるケース

・労働契約で定められた賃金の未払いはないか?
→労働契約書、賃金台帳、出勤簿(タイムカード)、就業規則および賃金規程を確認。未払いがあれば是正勧告の対象となり、過去2年分までさかのぼって支払う必要があります。

・労働時間に応じて賃金(残業代)は正しく計算され、支払われているか?
→労働契約書、賃金台帳、出勤簿(タイムカード)、就業規則および賃金規程を確認。残業時間および残業代の切り捨てなどがあれば是正勧告の対象となり、その分の残業代を過去2年分まで計算して支払う必要があります。

・固定残業代の定めがある場合には、労働契約(賃金規程)にその旨が明記され、通常の賃金と分けて計算・支払いされているか?
→労働契約書、賃金台帳、出勤簿(タイムカード)、就業規則および賃金規程を確認。実際に計算した残業代が固定残業代を上回る場合には是正勧告の対象となり、その分の残業代を支払う必要があります。

・36協定(時間外、休日労働に関する労使協定)の締結および届け出を行っているか?
→36協定の協定書および協定届を確認。手続きが行われていない場合、是正勧告の対象となります。

・36協定(時間外、休日労働に関する労使協定)で定められた以上の残業が行われていないか?
→36協定の協定書および協定届、出勤簿(タイムカード)を確認。残業時間が36協定の定めを上回る場合、是正勧告の対象となります。

・従業員が10名以上の場合、就業規則の届け出を行っているか?
→常時使用する従業員数(企業単位)が10名以上となる場合、就業規則の作成および届け出が必要となります。手続きが行われていない場合、是正勧告の対象となります。

是正勧告または指導の対象となるケース

・タイムカードなど客観的な方法で労働時間を正しく記録・把握しているか?
→出勤簿(タイムカード)を確認。自己申告制などとしていると、是正勧告または指導の対象となります。

・裁量労働制の対象とならない職種の従業員を裁量労働制としていないか?
→裁量労働制に関する協定書および協定届、労働契約書、出勤簿(タイムカード)、就業規則を確認。実態として裁量労働制の要件に当てはまらない場合、通常の労働時間の把握および賃金の計算・支払いを行うことになります。

・従業員の入社時に書面で労働条件の通知を行っているか?
→従業員の入社時に書面で労働条件の通知を行う必要があります。労働契約書、労働条件通知書、雇入通知書など、名称は問いません。手続きが行われていない場合、是正勧告または指導の対象となります。

指導の対象となるケース

・労働契約書に残業代の計算方法は明記されているか?
→労働契約書を確認。残業代の計算方法が明記されていない場合、指導の対象となります。

・給与明細に残業時間は明記されているか?
→賃金台帳(給与明細)および賃金規程を確認。残業時間が明記されていない場合、指導の対象となります。

明確に法違反がある場合は「是正勧告書」が交付され、指定期日までに改善し、報告することが義務付けられます(是正勧告に応じない場合で悪質と判断されると、法人・社長が送検され、事案が公表されることもあります)。
ただちに法違反とは言えないが改善が必要な場合は「指導票」が交付されます。指定期日までに改善し、報告するよう指示されます。是正勧告書と比べると緊急度・義務付けの度合いは低いと言えますが、対応のうえ提出しておくのが無難と考えます。

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―「プレ労働基準監督署調査」となる労働保険自主点検表とは。

労働条件自主点検表という書面が、労働基準監督署(労働局)または労働局が委託した団体から、会社宛に郵送されてきたことはないでしょうか。
「この点検表は、御社の労務管理が労働基準法等に照らして問題ないかを自ら点検し、問題あれば自主的に改善するきっかけとしていただくためのものです。」と書かれており、点検表の記入および提出が(あくまで任意となっていますが)依頼されているものです。
内容としては従業員の労働条件を自己申告するものでして、自社に労働基準法などの違反があると認識していると、記入しているうちに提出を行うことが躊躇われるかもしれません。
自社に労働基準法などの違反などないと考えていれば躊躇なく提出を行いますので、いずれにしても法違反があることを認識してもらう機会にはなっているかと思います。

労働基準監督署の調査の対象となった際の対応のポイントとは?
よくある問題と解決策

Case1

労働基準監督署からの調査の連絡があったが、忙しいのでとくに対応していない。

決策

そのうち担当官が会社や現場に訪問してくるので、早めに対応する準備を進めましょう。

Case2

調査の際に出勤簿を提出するように言われたが、とくに作成していない。

決策

出勤簿、賃金台帳、労働者名簿は労働基準法により作成を義務付けられています。ないものは仕方ないので、事情を説明します(入室記録やシフト表など、代わりの資料を提示する場合もあります)。

Case3

未払い残業代が多額となっているが、全額支払わなければならないのか。

解決策

明らかに支払う義務がある部分については是正勧告により支払うことになりますが、事実関係が明らかでない部分については支払わずにすむ場合もあります。

Case4

従業員が10名を超えているが、就業規則の届け出を行っていなかった。

解決策

すぐに届け出を行えば、是正勧告は免れます。

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