■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞
事業を廃止・休止し、または他の事業に合併される場合には、社会保険・労働保険において事業所の廃止および保険料を清算する手続きを行うことになります。
すでに適用・成立している保険関係を廃止する手続きになりますので、適用・成立を行う際の手続き同様、廃止・休止・合併の事実があったか、確認書類をもって厳格に判断されます。
保険関係の廃止・清算の要件として、労働保険(労災保険)・雇用保険では「雇用する従業員がゼロになり、今後も雇い入れの見込みがないとき」とされますので、被保険者がいなくなると同時に保険関係の廃止・清算を行うことが多くあります。
一方、社会保険では明確に事業の廃止・休止・合併が適用の廃止の要件とされており、たとえば事業の清算期間など、被保険者がいなくなった後もしばらく保険関係が残っていることが多くあります。
■事業を廃止・休止・合併する時の社会保険の手続き・手続きが発生する要件は?
以下のいずれかに該当する場合に社会保険適用事業所全喪届の手続きが必要となります。
- 事業を廃止(解散)する場合
- 事業を休止(休業)し、再開の見込みがない場合
- 他の事業に合併される場合
■事業を廃止・休止・合併する時の社会保険の手続き・期限はいつまで?
・健康保険・厚生年金保険 適用事業所全喪届
→ 事業の廃止・休止・合併から5日以内に年金事務所へ
全喪届の提出時に被保険者が在籍している場合
・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届
→ 適用事業所全喪届と同時に年金事務所へ
執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―手続きの際に事実関係を確認するための書類を求められます。
適用事業所全喪届の提出の際には、解散登記の記入がある法人登記簿謄本のコピー、または雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)のコピーを求められます。
手続きの順番を考えると、雇用保険から先に進めていくのが効率的でしょう。
雇用保険の廃止手続きを行わない場合は、税務署への届け出の控えなどで手続きを進めます。
■事業を廃止・休止・合併する時の雇用保険の手続き・手続きが発生する要件は?
―退職以外にも資格喪失手続きを行う場合があります。
以下のいずれかに該当する場合に雇用保険適用事業所廃止届の手続きが必要となります。
- 事業を廃止(解散)する場合
- 事業を休止(休業)し、再開の見込みがない場合
- 他の事業に合併される場合
- 雇用する従業員(被保険者)がゼロになり、今後も雇い入れの見込みがないとき
■事業を廃止・休止・合併する時の雇用保険の手続き・期限はいつまで?
・雇用保険 適用事業所廃止届
→ 事業の廃止・休止・合併等から10日以内にハローワークへ
廃止届の提出時に被保険者が在籍している場合
・雇用保険 被保険者資格喪失届
→ 適用事業所廃止届と同時にハローワークへ
従業員から離職票の交付を求められた場合
・雇用保険 被保険者離職証明書
→ 従業員の退社した日の翌日から10日以内にハローワークへ
■事業を廃止・休止・合併する時の労働保険の手続き・手続きが発生する要件は?
以下のいずれかに該当する場合に労働保険確定保険料申告の手続きが必要となります。
- 事業を廃止(解散)する場合
- 事業を休止(休業)し、再開の見込みがない場合
- 他の事業に合併される場合
- 雇用する従業員がゼロになり、今後も雇い入れの見込みがないとき
■事業を廃止・休止・合併する時の労働保険の手続き・期限はいつまで?
(一般的な業種)
・労働保険 確定保険料申告書
→ 事業の廃止・休止・合併等から50日以内に労働基準監督署へ
(建設業の場合)
・労働保険 確定保険料申告書
(事務所労災分)→ 事業の廃止・休止・合併等から50日以内に労働基準監督署へ
(雇用保険分)→ 事業の廃止・休止・合併等から50日以内にハローワークへ
※ 建設業については保険の扱いが特殊で、労災保険と雇用保険の手続きを分けて行います。さらに現場の労働保険の手続きも別に行う必要があります。
事業を廃止・休止・合併する時に必要な社会保険・労働保険
よくある問題と解決策
Case1
社会保険の被保険者数がゼロになるが、資格喪失届と同時に全喪届の提出は必要なのか。
解決策
被保険者の資格喪失と事業所の全喪(廃止)の要件が異なるので、事業の廃止・休止・合併による資格喪失でなければ、同時に提出する必要はありません。
Case2
労働保険の廃止手続きはどのように行ったらよいのか。
解決策
労働保険の確定保険料申告書をもって、確定保険料の申告と同時に行います。
Case3
社会保険の全喪届の内容が日本年金機構のホームページで公表されるということだが、防ぐ方法はないのか。
解決策
ありません。事業所名称、所在地、全喪年月日が、「適用の適正化の観点から」日本年金機構のホームページに掲示し、閲覧に供されることとされています。