■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞(プロフィール)
社会保険(健康保険・厚生年金)では「標準報酬」というシステムをとっていて、各被保険者ごとに決定された標準報酬の額を用い、社会保険料の額や保険給付の計算が行われています。
標準報酬は健康保険は50等級、厚生年金は31等級あり、実際に支払った報酬額を表に当てはめて決定されます。
標準報酬が決定または改定されるのは以下のタイミングでして、ここでご説明するのは、報酬額が大きく増減したとき「随時改定」と、育児休業から職場復帰をした際の「育児休業等終了時改定」にあたります。
- 入社時「資格取得時決定」
- 年1回の算定基礎届による「定時決定」
- 報酬額が大きく増減したとき「随時改定」
- 育児休業を終了した際の改定「育児休業等終了時改定」
■標準報酬月額変更・手続きが発生する要件は?
―昇給または降給があっても手続きが発生しない場合があります。
以下のすべての要件を満たす場合に標準報酬月額変更の手続きが必要となります。
- 昇給または降給により固定的賃金に変動があった。
※固定的賃金とは基本給(月給、日給、時給によるもの)、諸手当(役職手当、住宅手当)、通勤交通費などをいい、契約労働時間の変更や引っ越しによる通勤交通費の変動も固定的賃金の変動とみなされます。 - 変動月からの3ヶ月間に支給された報酬額の平均とこれまでの標準報酬月額を比較して2等級以上の差が生じた。(標準報酬月額表の上限または下限にわたる場合は1等級)
※変動月からの3ヶ月間に支給された報酬額には、残業手当などの非固定的賃金も含みます。 - 3ヶ月とも報酬の支払基礎日数が17日以上である。
※月給制では歴日数から欠勤日数を引いたもの、日給制および時給制では出勤日数が支払基礎日数となります。
ただし、以下のいずれかに該当する場合は標準報酬月額変更の手続きの対象外となります。
- 固定的賃金は上がったが、残業手当などの非固定的賃金が減ったため、変動月から3ヶ月間に支給された報酬額の平均とこれまでの標準報酬月額を比較して2等級以上下がった場合。
- 固定的賃金は下がったが、残業手当などの非固定的賃金が増加したため、変動月から3ヶ月間に支給された報酬額の平均とこれまでの標準報酬月額を比較して2等級以上上がった場合。
執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―昇給または降給が保険料に反映されるまでタイムラグがあります。
時には向こう数ヶ月間の残業代を予想して、昇給または降給をおこなう必要があるかもしれません。例えば、基本給を上げた直後に残業代が多くなると、予想していた以上に標準報酬が上がり、保険料も高くなることがあります。
あるいは、基本給を下げた後に残業代が多くなると、標準報酬月額変更の手続きの対象とならないことがあります。
予想していたより保険料が高くなると、従業員の方からクレームが入る傾向があります。
■社会保険の標準報酬月額変更手続き・期限はいつまで?
・健康保険厚生年金保険 標準報酬月額変更届
→ 要件該当後、速やかに年金事務所へ
■育児休業等終了時報酬月額変更・手続きが発生する要件は?
―育児休業から職場復帰後は、1等級でも月額変更が可能です。
被保険者が育児休業から職場復帰後、一定の要件を満たすと標準報酬月額変更の手続きを行うことができます。
以下のすべての要件を満たす場合に育児休業等終了時報酬月額変更の手続きとなります。
- 育児休業等が終了し、職場復帰時に3歳未満の子を養育している。
- 職場復帰月からの3ヶ月間に支給された報酬額の平均とこれまでの標準報酬月額を比較して1等級以上の差が生じた。
※支払基礎日数が17日未満(週所定労働時間が20~30時間の短時間就労者は15日)の月は計算から除きます。 - 職場復帰月からの3ヶ月のうち、少なくとも1ヶ月の報酬の支払基礎日数が17日以上である。(週所定労働時間が20~30時間の短時間就労者は15日)
※月給制では歴日数から欠勤日数を引いたもの、日給制および時給制では出勤日数が支払基礎日数となります。
■育児休業等終了時報酬月額変更・期限はいつまで?
・育児休業等終了時報酬月額変更届
→ 要件該当後、速やかに年金事務所へ
執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―昇給または降給が保険料に反映されるまでタイムラグがあります。
昇給または降給があってから4ヶ月目に標準報酬月額変更の手続きを行い、給与からの源泉徴収および保険料の納付額が変更となるのは5ヶ月目になります。
昇給の場合は4ヶ月の間保険料が安いままなので、手取りが多くなりますが、降給の場合は逆に4ヶ月の間保険料が高いままなので、手取りが少なくなってしまいます。
従業員の方からクレームが入ることもありますが、標準報酬のシステム上致し方ありません。
社会保険の標準報酬月額変更手続き
よくある問題と解決策
Case1
手続きを失念してしまい、後で社会保険料の不足額をまとめて徴収することになった。
解決策
固定給が変更になった従業員をマークしておき、手続き漏れには注意します。
Case2
病気で休職している従業員から、標準報酬月額変更の手続きができないかと言われた。
解決策
休職期間が無給の場合、または会社から休職給を受けている場合は固定的賃金の変動にあたらず、標準報酬月額変更の手続きをおこなうことはできません。
Case3
65歳で定年後、勤務日数を減らして再雇用される従業員については標準報酬月額変更の手続きになるのか。
解決策
就業規則等による定年であれば、退職した日の翌日(再雇用の日)をもって資格喪失および資格取得の手続きを行うことが認められているので、活用するべきです。