■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞

公共職業安定所(ハローワーク)が行う調査は、失業給付や高年齢雇用継続給付、教育訓練給付など給付金の不正受給がないか、その根拠となる届け出が正しく行われたかを確認されるものが主となります。
また、近年はあまり見かけませんが、従業員の資格取得(加入)もれの有無を労働者名簿や賃金台帳、出勤簿で確認されることもあります。
公共職業安定所(ハローワーク)ではキャリアアップ助成金や雇用調整助成金など一部雇用関係の助成金の書類の受理を行っており、以前は助成金の書類に不備がないかについて調査を行うこともありました。
しかし、現在では書類の審査を行う都道府県労働局で書類の不備や不正受給がないかなど、一括して助成金に関する調査を行っています。

■公共職業安定所(ハローワーク)の調査はいつ行われるのか?

公共職業安定所(ハローワーク)の調査はおもに以下のタイミングで行われます。

  • 意図的に不正な手続きを行ったと疑われるとき
  • 意図的に手続きを行っていないと疑われるとき
  • 大量の資格取得または資格喪失の手続きが生じたとき
  • 外国人労働者の不法就労の疑いをもたれているとき

■公共職業安定所(ハローワーク)の調査に応じない場合はどうなる?

悪質とされる場合には、雇用保険法第83条により、事業主(法人・社長)を6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処する場合があるとされています。

■公共職業安定所(ハローワーク)が調査する際、よく調べられるポイントとは?

公共職業安定所(ハローワーク)の調査では、以下の点(とくに給付金などお金にかかわる点)について資料を突き合わせ、重点的に調べられます。

離職票(離職証明書)の記載は事実通りか
(例)

  • 賃金台帳、出勤簿と記載内容は一致しているか(賃金額を水増ししていないか)
  • ・退職理由は事実通りか(自己都合を会社都合にしていないか)
  • そもそもまだ在籍しているようなことはないか
資格取得手続きが適切なタイミングで行われているか
(例)

  • 従業員が失業給付を受け終わるまで、意図的に資格取得手続きを遅らせていないか
  • 雇用保険料の支払いを行わないため、意図的に資格取得手続きを遅らせていないか
  • パート、アルバイトであることを理由に雇用保険に加入させないようなことはないか
資格喪失手続きが適切なタイミングで行われているか
(例)

  • 在籍している従業員の資格喪失手続きを意図的に行っていないか
  • 専従役員となった従業員の資格喪失手続きを行っているか
  • すでに退職した従業員の資格喪失手続きはすべて行われたか(手続きもれはないか)
外国人労働者に関する届け出は行われているか
(例)

  • 外国人労働者の雇用状況に関する届け出は全員分行われているか
  • 外国人であることを理由に雇用保険に加入させないようなことはないか

■公共職業安定所(ハローワーク)の調査の結果、会社が指導される措置とは?

公共職業安定所(ハローワーク)の調査の結果、会社が手続きのもれや間違いを指摘された場合、それを正しい状態に補正する手続きを行うことになります。
手続きの補正にともない保険料に差額が出る場合には修正申告を行うことになりますが、雇用保険では労災保険と合わせ1年分の保険料を年度末に申告するので、毎月徴収・納付を行う社会保険料より精算は簡単といえます。
そもそも、年度末までに間違いが見つかれば雇用保険料の差額を修正申告する必要もありません。

被保険者の資格取得が行われていない常勤パートがいた。
入社時(雇用保険料の源泉徴収が確認できない場合には最大2年)までさかのぼって資格取得の手続きを行わなければなりません。また、前年度、前々年度までの雇用保険料の修正申告を行う必要があるとともに、過去分の雇用保険料の源泉徴収をどうするのかという問題が生じます。

在職中の従業員を離職したことにして、失業給付を不正に受給させていたところ、会社に調査が入った。
会社も離職者(不正受給者)と連帯して失業給付を返還する義務を負います。また、悪質とみなされる場合は不正受給額の最大3倍の返還となります。

従業員から「失業給付が受けられないから資格取得の手続きを行ってほしい」と言われたが、無視していたところ、ハローワークに申告され、会社に調査が入った。
入社時(雇用保険料の源泉徴収が確認できない場合には最大2年)までさかのぼって資格取得の手続きを行わなければなりません。本来なら受けられる額の失業給付を受けられない場合、損害賠償の問題も生じます。

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―「自己流」の手続きには、注意しましょう。

ここでは不正受給など比較的極端なケースを上げましたが、たとえ悪意はなくとも、社長や担当者が法律を自己流に解釈して手続きを行っていると、実際には違法であったというような事例もみられます。
日頃から雇用保険の手続きは法に定める要件を守り、適正に行いましょう。
公共職業安定所(ハローワーク)の調査については、プロである社会保険労務士への相談をお勧めします。

公共職業安定所(ハローワーク)の調査の対象となった際の対応
よくある問題と解決策

Case1

調査の前に資格取得や資格喪失の手続きもれがないか確認しておきたい。

決策

ハローワークに「雇用保険 被保険者台帳提供依頼書」を提出することによって、雇用保険の被保険者の手続き状況を確認することができます。

Case2

入社した従業員から資格取得の手続きを遅らせて欲しいといわれ、その通りにしていた。

決策

本来入社日で受けられなくなる失業給付を受け続けている可能性があり、会社に調査が入る原因となります。不正受給となれば連帯責任となることもあるので、本来の入社日で手続きを行いましょう。

Case3

退職した従業員と合意のうえ、離職理由を会社都合とした。

解決策

離職票に記載する離職理由は当然、事実に即したものでなければなりません。ただし、実務上は会社と退職者の合意の元に体裁を改め、お互いの間で確認された事実関係を届け出ることに関しては、事実上退職勧奨と同義となり、問題ないとされています。

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