■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞
社会保険(健康保険・厚生年金)の被保険者となっている従業員に対して賞与を支払ったときには、年金事務所に賞与を支払った旨の報告をしなければなりません。
賞与とは、賃金、給料、俸給、手当その他いかなる名称であるかを問わず、従業員が仕事の対価として受けるもののうち、支給回数が年3回以下と定まっているものをいいます。
支給回数が年4回以上と定まっているものは標準報酬月額の計算の際に計上されるので、賞与支払届の提出は不要です。
賞与については標準賞与額といい、支払い時に社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の源泉徴収および納付が必要です。保険料率については標準報酬月額にかかるものと同じ料率です(計算の際は1,000円未満が切り捨てになります)。
保険料を支払う分については標準賞与額として標準報酬月額に加え、平均標準報酬額として年金額を支給する際の対象となります。
■従業員に賞与を支払った時の手続き・期限はいつまで?
・健康保険厚生年金保険 賞与支払届
→ 賞与の支払いから5日以内に年金事務所へ
(1人当たり、年間の合計賞与額が5,730,000円を超え、さらに賞与の支給がある場合)
・健康保険標準賞与額累計申出書 → 賞与支払届と同時に年金事務所へ
逆に、賞与支払予定月とされていた月に賞与の支払いがなかったときは以下の届け出が必要になります。
■従業員に賞与を支払わなかった時の手続き・期限はいつまで?
・健康保険厚生年金保険 賞与支払届(総括表)
→ 不支給が確定したら速やかに年金事務所へ
執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―賞与にかかる保険料の頭打ちを利用して、保険料の合理化を考えることができます。
健康保険は年間の合計賞与額が5,730,000円、厚生年金は1月あたりの賞与額が1,500,000円で保険料の額が頭打ちになります。
給与額を下げ、賞与額を高くし、保険料を合理化する方法も考えられます。
■社会保険の賞与支払い手続き・対象とならないケースとは?
―インセンティブの取り扱いには注意してください。
・業績給(インセンティブ)で、実績が上がった都度、月の給与と同時に支給するもの
→算定基礎届および月額変更届において支給月に計上されます。
・業績給(インセンティブ)などで、4半期ごとに、月の給与と同時に支給することが定められているもの
→ 1年間の総支給額を12で割ったものが算定基礎届および月額変更届の各月に計上されます。
・結婚祝金、出産祝金、災害見舞金、またはいわゆる大入袋
→ 福利厚生として支給される金銭、恩恵的に支給される金銭については、仕事の対価とはみなされず、社会保険料の計算および手続きの対象とはなりません。
執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―退職予定のある従業員には賞与ではなく退職金として支払う扱いが有利です。
賞与支払届の提出の必要があるのは、社会保険の被保険者として在籍している従業員に対し、被保険者期間中に支給した賞与となります。
たとえば、退職する予定の従業員に対しては、賞与の代わりに退職金として退職後に支給すれば、賞与支払届の対象とはならず、社会保険料もかかりません(退職金の名目であっても、在職中に支給する問賞与支払届の対象となる可能性があるため、ご注意ください。)。
社会保険の標準報酬月額変更手続き
よくある問題と解決策
Case1
賞与支払届の手続きを行ったところ、翌々月の社会保険料が非常に高くなった。
解決策
賞与支払届にかかる社会保険料は賞与の支払い時に従業員負担分を源泉徴収し、翌月末に会社負担分と併せて納付するのが原則です。賞与支払届のタイミングによっては翌々月の納付となることもあります。
Case2
賞与の社会保険料は安いと聞いていたが、随分高かった。
解決策
2014年(平成26年)までは賞与にかかる保険料率は0.5%と非常に安くなっていましたが、現在では通常の報酬にかかる保険料率と同じになっていますので、ご注意ください。
Case3
賞与の支払いは行っていないが、郵送されてきた賞与支払い届はどうするか。
解決策
速やかに不支給の旨の届け出を行ってください。賞与の支給予定月を過ぎると、年金事務所から電話などで提出を督促されます。今後も賞与の支給予定がないのであれば、その際に支給予定月の変更を行います。