■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞

個人事業においては社会保険に加入する義務はないとお考えの方も多いのですが、従業員が5人以上になると、サービス業以外の業種では加入が義務付けられることになります。

それを聞いて、「うちは飲食業の個人店だから社会保険に加入しなくてもいいんだな」といわれますと、まあその通りです(逆に家族を健康保険に入れたいなど希望があれば、任意で社会保険に加入することはできます)。

しかしながら、従業員を一人でも雇った場合には労災保険(労働保険)の手続きが必要となりますので、これだけは必ず行ってください。万が一職場での転倒や通勤中の交通事故などが発生したときに、事業主が補償しなければならないケースが出てきます。事業を続けるためにも、従業員のためにも、労災保険にまだ加入していない場合、すぐに手続きを行いましょう。

■個人事業者の労働保険保険関係成立(加入)手続き・期限はいつまで?
―パート・アルバイトを雇用する場合にも、必要になります。

【一般的な業種】

・労働保険 保険関係成立届
従業員の入社から10日以内に労働基準監督署へ
・労働保険 概算保険料申告書
従業員の入社から50日以内に労働基準監督署へ

【建設業の場合】

・労働保険 保険関係成立届
(事務所労災分)→ 従業員の入社から10日以内に労働基準監督署へ
(雇用保険分)→ 従業員の入社から10日以内にハローワークへ
・労働保険 概算保険料申告書
(事務所労災分) → 従業員の入社から20日以内に労働基準監督署へ
(雇用保険分)→ 従業員の入社から20日以内にハローワークへ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、健康保険組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

※ 建設業については保険の扱いが特殊で、労災保険と雇用保険の手続きを分けて行います。さらに現場の労災保険加入手続きも別に行う必要があります。

■個人事業者の労働保険保険関係成立(加入)手続き・対象者はどこまで?
―代表者と親族以外の従業員はすべて対象になります。

・代表者と同居の親族を除くすべての従業員(社員、パート、アルバイトなど)

■個人事業者の雇用保険適用事業所設置(加入)手続き・期限はいつまで?
―常勤の従業員を雇用する場合、必要になります。

・雇用保険 適用事業所設置届
従業員の入社から10日以内にハローワークへ
・雇用保険 被保険者資格取得届
従業員の入社の翌月10日までにハローワークへ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。

■個人事業者の雇用保険適用事業所設置(加入)手続き・対象者はどこまで?
―代表者と親族以外の従業員はすべて対象になります。

・契約労働時間20時間以上かつ1ヶ月以上の契約の従業員(社員、パートなど)

■個人事業者の社会保険新規適用(加入)手続き・期限はいつまで?
―従業員が5人になるまでは手続きの必要はありません。

・健康保険・厚生年金保険 新規適用届
従業員が5人以上になった後、10日以内に年金事務所へ(サービス業の一部をのぞく)
・健康保険・厚生年金保険 資格取得届
新規適用届と同時に年金事務所へ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、健康保険組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

※ ここで従業員とは代表者を含めた常勤(契約勤務時間週30時間以上)の従業員をいいます。従業員が5人未満の場合、サービス業(飲食業、旅館業など)の場合、社会保険に加入する義務はありません。ただし、従業員の半数以上が希望をすれば、任意で加入することは可能です。

■個人事業者の社会保険新規適用(加入)手続き・対象者はどこまで?
―個人事業の代表者は加入することができません。

・常勤(契約勤務時間が30時間以上かつ2ヶ月以上の契約)の従業員(代表者をのぞく)

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―従業員を雇用したら、労災保険の手続きだけは、必ず行ってください。

同居の親族以外の従業員を雇用した際には、労働保険(労災保険)の手続きを必ず、すぐに行ってください。手続きが遅れている間に労災事故が起こってしまった場合、会社が多額の補償を行わなければならないこともあります。
労災保険については社会保険(健康保険・厚生年金)と比較すると、保険料もさほど高額ではないため、さほど負担感はありません。

個人事業者の社会保険・労働保険手続き
よくある問題と解決策

Case1

労災保険の加入手続きを行っていなかったところ、従業員が仕事中に転倒、負傷して、会社が治療費を負担することになった。

決策

アルバイトを一人でも雇用することになったら、労災保険はすぐに加入しなければなりません。意外に保険料が安いので、まずはご確認ください。

Case2

雇用保険の加入手続きを行っていなかったところ、退職した従業員から、失業給付は受けられないかと請求があり、相当する額を会社が負担することになった。

決策

法律上は雇用保険にさかのぼって加入するのが正解です。社員だけでなく、週20時間以上勤務するパートやアルバイトを雇用する場合にも雇用保険の手続きは必要となります。

Case3

飲食業を行っていて、従業員が健康保険のみ職場で加入したいと言っているが、手続きを行えば可能なのか。

解決策

結論から言えば可能です。社会保険の加入が任意となっている個人事業(従業員5人未満またはサービス業)の場合、健康保険または厚生年金保険のみ選択して加入することができます。ただし、事業所単位での適用となりますので、従業員ごとに選択を変えることはできません。

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