■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞

会社(適用事業所)に勤務する従業員の厚生年金の加入年齢の上限は70歳、健康保険の加入年齢の上限は75歳となり、以降の年齢においては原則として厚生年金および健康保険被保険者の資格を取得することはありません。
しかしながら、70歳以上において雇用されている従業員については被保険者と同様、会社が「70歳以上被用者」に関する各種の届け出を行う必要があります。
これは、老齢厚生年金が報酬に対応して支給停止される「在職老齢年金」に対応する手続きで、70歳以上における報酬の状況、すなわち「標準報酬月額相当額」を届け出るものです。
70歳以上被用者届については年齢の上限はなく、たとえば100歳で勤務することになっても手続きが必要となります。

■社会保険・70歳以上被用者該当届・手続きが発生する要件は?

以下のいずれかに該当する場合に70歳以上被用者該当届の手続きが必要となります。

・70歳以上の従業員が新しく入社するとき

・社会保険に加入している従業員が70歳に達したとき

ただし、従業員が以下の両方の要件を満たす場合となります。

・70歳以上で、過去に厚生年金の被保険者期間がある。

・法人の代表者、役員、常勤(契約勤務時間が30時間以上かつ2ヶ月以上の契約)の従業員のいずれかである。
※報酬を受けない者、非常勤の監査役をのぞく

■社会保険70歳以上被用者該当届・期限はいつまで?

(70歳以上の従業員が新しく入社するとき)

・健康保険・厚生年金保険 資格取得届 厚生年金保険70歳以上被用者該当届
従業員の入社から5日以内に年金事務所へ

(社会保険に加入している従業員が70歳に達したとき)

・厚生年金保険 資格喪失届 厚生年金保険70歳以上被用者該当届
従業員の入社から5日以内に年金事務所へ
※2019年4月1日以降、70歳到達日時点の勤務先および標準報酬月額相当額が70歳到達日前と変わらない場合、当手続きは不要となります。

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、健康保険組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

■社会保険・70歳以上被用者不該当届・手続きが発生する要件は?

以下のいずれかに該当する場合に社会保険70歳以上被用者不該当届の手続きが必要となります。

  • 70歳以上の従業員が退職したとき
  • 労働条件の変更などにより勤務時間が30時間未満になったとき
  • 死亡したとき

■社会保険・70歳以上被用者不該当届・手続きが発生する要件は?

・健康保険・厚生年金保険 資格喪失届 厚生年金保険70歳以上被用者不該当届
従業員の退社した日の翌日から5日以内に年金事務所へ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、健康保険組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

■社会保険・70歳以上被用者標準報酬月額変更届・手続きが発生する要件は?

以下のすべての要件を満たす場合に標準報酬月額(相当額)変更の手続きが必要となります。

・昇給または降給により固定的賃金に変動があった。
※固定的賃金とは基本給(月給、日給、時給によるもの)、諸手当(役職手当、住宅手当)、通勤交通費などをいい、契約労働時間の変更や引っ越しによる通勤交通費の変動も固定的賃金の変動とみなされます。

・変動月からの3ヶ月間に支給された報酬額の平均とこれまでの標準報酬月額を比較して2等級以上の差が生じた。(標準報酬月額表の上限または下限にわたる場合は1等級)
※変動月からの3ヶ月間に支給された報酬額には、残業手当などの非固定的賃金も含みます。

・3ヶ月とも報酬の支払基礎日数が17日以上である。
※月給制では歴日数から欠勤日数を引いたもの、日給制および時給制では出勤日数が支払基礎日数となります。

ただし、以下のいずれかに該当する場合は標準報酬月額(相当額)変更の手続きの対象外となります。

固定的賃金は上がったが、残業手当などの非固定的賃金が減ったため、変動月から3ヶ月間に支給された報酬額の平均とこれまでの標準報酬月額を比較して2等級以上下がった場合。

固定的賃金は下がったが、残業手当などの非固定的賃金が増加したため、変動月から3ヶ月間に支給された報酬額の平均とこれまでの標準報酬月額を比較して2等級以上上がった場合。

■社会保険・70歳以上被用者標準報酬月額変更届・期限はいつまで?

・健康保険・厚生年金保険 標準報酬月額変更届 厚生年金保険70歳以上被用者月額変更届
要件該当後、速やかに年金事務所へ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、健康保険組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

■社会保険・70歳以上被用者算定基礎届・期限はいつまで?

・健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届 厚生年金保険70歳以上被用者算定基礎届
毎年7月1日から7月10日まで(または書面で指定された日)に年金事務所へ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、健康保険組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

■社会保険 被保険者報酬月額算定基礎届・手続きの対象とならない70歳以上被用者の範囲は?

・6月1日以降に入社をした場合

・6月30日以前に退職をした場合

・7月に報酬月額(相当額)変更の要件にあてはまる場合

・8月または9月に報酬月額(相当額)変更が予定されている旨の申し出を行う場合
※8月または9月になり報酬月額(相当額)変更の要件に該当した場合、70歳以上被用者月額変更届の提出を行います。要件に該当しなかった場合は別途、70歳以上被用者算定基礎届を提出します。

■社会保険・70歳以上被用者賞与支払届・期限はいつまで?

・健康保険厚生年金保険 賞与支払届 厚生年金保険 70歳以上被用者賞与支払届
賞与の支払いから5日以内に年金事務所へ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、健康保険組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―手続きの結果、老齢厚生年金の受給額に影響が出る場合があります。

70歳以上被用者については届け出た報酬額にかかわらず厚生年金保険料が課されることはありませんが(75歳に達するまで健康保険料は課されます)、老齢厚生年金の月額と標準報酬月額相当額の合計額が470,000円を超える場合、超えた額の2分の1に相当する額の老齢厚生年金の支給が停止となります。
すなわち、70歳以降に年金の支給停止を受けずに働こうとする場合、年金額と報酬額の合計が470,000円を超えない範囲で勤務するか、非常勤などで勤務すればよいでしょう。

70歳以上の従業員に関して必要な社会保険の手続き
よくある問題と解決策

Case1

70歳以上被用者標準報酬月額変更届の提出が遅れてしまった。

決策

手続きが遅れても差し支えはありませんが、年金額の調整が遡って一括して行われるため、急に年金額が増減してしまうことがあります。

Case2

70歳以降に老齢厚生年金を繰り下げて受給する場合、その間は届け出の必要はないか。

決策

老齢厚生年金の受給がない期間でも被保険者期間がある場合、届け出の必要があります。

Case3

70歳以降に厚生年金の高齢任意加入被保険者となっている場合、その間は届け出の必要はないか。

解決策

高齢任意加入被保険者となっている間は70歳以上被用者に関する届け出の必要はありません。

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