■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞

日本国内で外国人を雇用しようとする際にまず確認する必要があるのが、外国人が持っている在留カードです。
在留カードとは、日本に中長期間(おおよそ3ヶ月以上)在留する外国人に対して交付されるカードで、氏名等の基本的身分事項や在留資格・在留期間が記載され、顔写真も貼付されています。
外国人に在留資格で認められていない業務を行わせると不法就労となってしまいます。
とくに、在留カードの確認を行わず雇用した場合、雇用者が入国管理法上の責任を問われる場合があるので、注意して確認する必要があります。
在留カードに記載された在留資格を確認し、その内容を入社時及び退社時にハローワークへ届け出ます。
外国人だから社会保険に加入させなくてよいと良く勘違いをされますが、社会保険・雇用保険の手続きについては基本的に日本人の雇用と変わりありません。

■就労が認められる在留資格、就労が認められない在留資格

1.在留資格に定められた範囲で就労が認められる在留資格18種類
外交、公用、教授、芸術、宗教、報道、投資・経営、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術、人文知識・国際業務、企業内転勤、興行、技能、技能実習、特定活動(ワーキングホリデー、EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士、ポイント制等)

一般に雇用のケースが多いと考えられるものは次の4種類です。

  • 技  術 … プログラマー・エンジニア、自動車設計技師など
  • 人文知識・国際業務 … 通訳、語学の指導、為替ディーラー、デザイナーなど
  • 企業内転勤 … 企業が海外の本店又は支店から期間を定めて受け入れる社員(活動は、「技術」、「人文知識・国際業務」に掲げるものに限る。)
  • 技  能 … 中華料理・フランス料理のコックなど
就労活動に制限がない在留資格 4種類
永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者
原則として就労が認められない在留資格 5種類
文化活動、短期滞在、留学、研修、家族滞在

「留学」及び「家族滞在」の在留資格をもって在留する外国人の方がアルバイト等の就労活動を行う場合には、地方入国管理局で資格外活動の許可を受けることが必要です。
具体的な許可の範囲については、事前に「旅券の資格外活動許可証印」又は「資格外活動許可書」などにより就労の可否及び就労可能な時間数を確認して下さい。

■外国人を雇用する際に必要な雇用関連の手続きとは?

「外交」「公用」「特別永住者」以外の在留資格を有する外国人を雇用する場合、入社時および退社時に外国人雇用状況の届出を行う必要があります。
雇用保険の被保険者については資格取得届および資格喪失届に外国人雇用状況届の内容が含まれているため、手続きは一枚の用紙で同時に行うことができます。

外国人が週20時間以上勤務し、雇用保険の被保険者となる場合

雇用保険被保険者となる外国人が入社した時は…

・雇用保険 資格取得届・外国人雇用状況届
従業員の入社した月の翌月10日までにハローワークへ

雇用保険被保険者となる外国人が退社した時は…

・雇用保険 資格喪失届・外国人雇用状況届
従業員の退社した日の翌日から5日以内にハローワークへ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。

外国人が週20時間未満の勤務または役員として勤務するなど、雇用保険の被保険者とならない場合

雇用保険の被保険者とならなくとも、外国人雇用状況の届出が必要です。
・外国人雇用状況届出書【※】
従業員の入社した月の翌月末日までにハローワークへ

【※】厚生労働省外国人雇用状況届出システムによる申請に対応しています。

■外国人を雇用する際に必要な社会保険の手続きとは?

新しく従業員が入社する場合には、外国籍であっても以下の要件に該当すれば、社会保険の被保険者にする(資格取得)手続きを行う必要があります。

・法人の代表者(代表取締役、理事長、代表社員など)、役員(取締役、理事など)
社会保険(健康保険・厚生年金)に加入

・常勤(契約勤務時間が30時間以上かつ2ヶ月以上の契約)の従業員
社会保険(健康保険・厚生年金)に加入
ただし、役員をのぞく

・報酬を受けない役員、非常勤(契約勤務時間が20時間未満または1ヶ月以上の雇用が見込まれない場合)の従業員
手続きは必要なし

資格取得手続きについては以下の通りとなります。

扶養している家族がいない場合

・健康保険・厚生年金保険 資格取得届
従業員の入社から5日以内に年金事務所へ

扶養している家族がいる場合

・健康保険・厚生年金保険 資格取得届
従業員の入社から5日以内に年金事務所へ
・健康保険・厚生年金保険 被扶養者(異動)届
資格取得届と同時に年金事務所へ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、健康保険組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

初めて社会保険に加入する場合、または社会保険に関する被保険者情報がマイナンバーとひも付けされていない場合には、上記に加え、氏名のローマ字読みを届け出る必要があります。

・厚生年金保険 ローマ字氏名届【※】→ 資格取得届と同時に年金事務所へ

【※】厚生労働省e-govおよび市販の人事労務ソフトで資格取得届(電子申請)を提出する場合、pdfデータを添付書類として扱い同時に届け出を行うことができます。

ただし、就労の予定が5年以内で「社会保障協定」が締結されている国から派遣される外国人の場合、派遣元国の社会保障制度に引き続き加入することで、日本の社会保障制度(健康保険および厚生年金の片方または両方)の加入が免除される場合があります。
社会保障協定の適用については、派遣元の国で交付された「適用証明書」を提出してもらい、年金事務所へ提出する必要があります。

※2019年4月現在、「社会保障協定」を締結し発効している国は、ドイツ・イギリス・韓国・アメリカ・ベルギー・フランス・カナダ・オーストラリア・オランダ・チェコ・スペイン・アイルランド・ブラジル・スイス・ハンガリー・インド・ルクセンブルク・フィリピン・イタリア・スロバキア・中国の20か国です(発効前で既に署名を完了している国もあります。)。

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―健康保険のみ加入させるということは原則としてできません。

外国人を雇用する際、老齢年金の受給資格(日本での被保険者期間が最低10年)を満たす見込みが少ないので、健康保険は入りたいが、厚生年金に入りたくないと言われることがあります。
しかし、外国人であっても社会保障協定における本国の適用証明書の所持者でない限り、厚生年金にももれなく加入させなければなりません。
短期(日本で6ヶ月以上の被保険者期間)で帰国する外国人には被保険者期間の月数に応じて「脱退一時金」が支給されるので、説明(説得)の際の材料とするとよいでしょう。

外国人の雇用に関して必要な社会保険・雇用保険の手続き
よくある問題と解決策

Case1

海外(本国)の家族に仕送りをしているが、健康保険の被扶養者として認められるのか。

決策

現行では被扶養者の所得が130万円未満であり、生計の維持を仕送りに頼っている状況であれば(実態を確認されます)、健康保険の被扶養者として認められます。ただし、2020年4月1日からは被扶養者の要件に国内居住の要件が追加される見込みです。

Case2

技能実習生は社会保険・労働保険に加入させる必要があるのか。

決策

入国直後の座学講習を修了し、労働者として勤務する場合には社会保険・労働保険とも原則として加入の必要があります。

Case3

在留資格を確認したところ、特別永住者だといわれた。

解決策

特別永住者には、在留カードに代わるものとして「特別永住者証明書」が交付されています。特別永住者証明書は就職の際に提示を求めることはできないため、代わりに住民票を求めるとよいでしょう。

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