■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞

7月1日時点で社会保険(健康保険・厚生年金)に加入している従業員(被保険者)が1名でもいる場合、原則として被保険者全員の報酬額を届け出る手続きが必要となります。
なぜこの手続きが必要かといいますと、社会保険は賃金額に直接保険料率を掛ける労働保険(労災保険・雇用保険)とは異なり、賃金額ごとに決められる「標準報酬」に保険料率を掛けて保険料を計算する仕組みをとっています。
しかしながら、実際に支払った報酬の額と標準報酬の額にずれが生じることが多々あるため、年1回、定期的に4月から6月までの報酬額を報告してもらい、9月以降の標準報酬額の調整を図ることとしています。
標準報酬は健康保険は50等級、厚生年金は31等級あり、報酬月額を表に当てはめて決定されます。
報酬が決定または改定されるのは以下のタイミングでして、ここでご説明するのは、年1回の算定基礎届による「定時改定」にあたります。

  • 入社時「資格取得時決定」
  • 年1回の算定基礎届による「定時決定」
  • 報酬額が大きく増減したとき「随時改定」
  • 育児休業を終了した際の改定「育児休業等終了時改定」

■社会保険 被保険者報酬月額算定基礎届・手続きの期限はいつまで?

・健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届
毎年7月1日から7月10日まで(または書面で指定された日)に年金事務所へ

・健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届 総括表
毎年7月1日から7月10日まで(または書面で指定された日)に年金事務所へ
※算定基礎届の該当者がいない場合、総括表のみ提出を行います。

・健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届
月額変更の該当者がいる場合、算定基礎届と同時に年金事務所へ

厚生労働省e-govによる電子申請および市販の人事労務ソフトへのAPI連携に対応しています。電子申請による省力化の効果が高い手続きです。ただし、健康保険組合の手続きがある場合は書面での手続きとなります。

■社会保険 被保険者報酬月額算定基礎届・手続きの対象とならない被保険者の範囲は?

  • 6月1日以降に入社(資格取得)をした場合
  • 6月30日以前に退職(資格喪失)をした場合
  • 7月に報酬月額変更の要件にあてはまる場合
  • 8月または9月に報酬月額変更が予定されている旨の申し出を行う場合
    ※8月または9月になり報酬月額変更の要件に該当した場合、被保険者報酬月額変更届の提出を行います。要件に該当しなかった場合は別途、報酬月額算定基礎届を提出します。

■社会保険 被保険者報酬月額算定基礎届・例外的な計算を行う場合は?

報酬月額算定基礎届は4月から6月までの報酬の支払基礎日数が17日以上(パートは15日以上)ある月を平均して計算しますが、該当月がない場合には計算を行わず、従前の標準報酬をそのまま用いることになります。

欠勤、休業により、4月、5月、6月の3ヶ月とも、報酬の支払基礎日数が17日未満(パートは15日未満)のとき
※月給制では歴日数から欠勤日数を引いたもの、日給制および時給制では出勤日数が支払基礎日数となります。
従前の標準報酬月額がそのまま適用されます。

通常の計算方法で標準報酬を計算することが「著しく不当である」と厚生労働大臣が認めるケースに該当する場合には「保険者算定」といい、別途定める額を標準報酬とします。

4月、5月、6月の3ヶ月のいずれかの給与計算期間の途中で入社したとき
入社した月を除外して標準報酬月額を計算されます。

4月、5月、6月の3ヶ月において、3月分以前の給与の遅配または遡った昇給を一括して受けたとき
遅配または昇給が行われなかったものとして標準報酬月額を計算されます。

4月、5月、6月のいずれかの月において、低額の休職給を受けたとき、またはストライキによる賃金カットがあったとき
休職給の支給があった月およびストライキによる賃金カットがあった月を除外して標準報酬月額を計算されます。

4月、5月、6月が例年繁忙期で残業代が増加するため、年間の報酬平均額の間に2等級以上の差が生じることにつき申し立てを行うとき
「年間報酬の平均で算定することの申立書」を別途提出することで、年間報酬の平均で標準報酬月額が計算されます。

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―4月から6月は残業の多くなる職場も多いのではないでしょうか。

以前から4月から6月に多く残業を行う会社の標準報酬月額が高くなり、残業のない月には社会保険料を割高に感じるということがよく言われていましたが、2019年の算定基礎届から「年間報酬の平均で算定することの申立書」の提出を行うことで、「報酬月額の算定の特例」として、年間の平均で標準報酬を計算することができるようになりました。
ちなみに、標準報酬が下がると保険料が安くなりますが、給付や年金の額も下がってしまうため、被保険者の同意が要件とされていますので、ご注意ください。

社会保険 被保険者報酬月額算定基礎届
よくある問題と解決策

Case1

年金事務所から、「算定基礎届提出時調査」のため来所するよう通知があった。

決策

詳細は書面に書いているかと思いますが、算定基礎届の提出に合わせて事業所調査を行うものです。全事業所を対象として3~4年に1回抜き打ちで行われています。

Case2

算定基礎届を提出したが、標準報酬月額の決定通知書がなかなか届かない。

決策

ここ2、3年は平均すると9月の後半に届いています。保険料の改定を行うために必要とされる方も多いと思うので、何とかして欲しいところです。手続き書類の控えで代用する他ありません。

Case3

賞与が年4回以上支払われているが、どのように処理したらよいか。

解決策

年4度以上支払われる賞与は賞与支払届の提出および保険料の徴収の必要がない代わり、12等分して4月から6月までの報酬に計上します。

Case4

社宅の貸与は現物支給となるのか。

解決策

従業員から家賃の3分の2以上を徴収する場合は現物支給とはされません。もし現物支給とされても、日本で一番高い東京において畳1畳2,590円とされるため、相当割安とは言えます(税や保険料の合理化スキームとなります)。

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