■はじめに
―執筆 特定社会保険労務士 山本多聞

この記事をご覧の方の中には、年金事務所から調査実施の書面が届き、対応をどのようにするべきかお考えの方も多いのではないでしょうか。
一般的な年金事務所の調査では、従業員全員分の労働契約書(社員名簿)、出勤簿、賃金台帳、源泉徴収税の領収証などの確認資料を年金事務所へ持参するよう求められ、通知の書面にもそのように記載されています。
持参する資料は従業員が数十名ともなると相当の量になるので、30分から最長2時間程度となる調査で内容を確認できるものかと思いますが、あまり整理されていない資料でもポイントを押さえて確認され、手続きもれがあれば、しっかりと指摘されることになります。
年金事務所の調査の目的は、会社が社会保険の手続きを正しく行っているかを確認し、間違っていれば改めるよう指導することにありますので、日ごろから正しく手続きをおこなってさえいれば何の心配もありません。

■年金事務所の調査はいつ行われるのか?

総合調査
社会保険の全適用事業所を対象として抜き打ちで行われる調査。およそ3~4年に1回くらい実施。
算定基礎届提出時調査
総合調査を算定基礎届の提出時に行うもの。全事業所を対象としておよそ3~4年に1回くらい実施。
いわゆる申告時調査
関係者から申告があり、調査の必要があると認めたときに実施。

■年金事務所の調査に応じない場合はどうなる?

悪質とされる場合には、健康保険法第208条および厚生年金保険法第102条により、事業主(法人・社長)を6か月以下の懲役または50万円以下の罰金に処する場合があるとされています。

■年金事務所が調査する際、よく調べられるポイントとは?

年金事務所の調査では、以下の点(とくに資格の取得喪失や保険料などお金にかかわる点)について資料を突き合わせ、重点的に調べられます。

資格取得(喪失)手続きが適切なタイミングで行われているか、手続きに漏れははないか
(例)

  • 常勤のパート、アルバイトを社会保険に加入させているか
  • 非常勤役員を社会保険に加入させているか
  • 退職した従業員の資格喪失を忘れていないか
  • そもそも加入していない常勤の従業員はいないか
標準報酬月額が報酬に合わせて正しく改定されているか、手続きに漏れはないか
(例)

  • 大幅に昇給した後、報酬月額変更届が提出されているか
  • 算定基礎届の提出時に残業代や交通費を計上しているか
  • そもそも賃金台帳に書かれた報酬額と届け出られた額が一致しているか
賞与に関する届け出を行っているか、手続きに漏れはないか
(例)

  • 臨時に支払った賞与に関する賞与支払届は提出されているか
  • 賞与支払月の変更はないか
社会保険料は適切に源泉徴収されているか、漏れはないか
(例)

  • 他の会社でも勤務する(二以上勤務)従業員の社会保険料の源泉徴収が行われているか
  • 賞与から社会保険料の源泉徴収が行われているか
事業所の名称、所在地、連絡先などに変更はないか

■年金事務所の調査の結果、会社が指導される措置とは?

年金事務所の調査の結果、会社が手続きのもれや間違いを指摘された場合、それを正しい状態に補正する手続きを行うことになります。その場合、保険料の納付額が一時的に大きくなってしまうこともあります。

被保険者の資格取得が行われていない常勤パートがいた。
最高2年までさかのぼって資格取得の手続きを行わなければなりません。また、2年分の社会保険料の源泉徴収および納付をどうするのかという問題が生じます。

他社で社会保険に加入していたため、資格取得を行わないでいた役員がいた。
最高2年までさかのぼって資格取得の手続きを行わなければなりません。また、2ヶ所以上勤務(二以上勤務)の届け出を行い、保険料も通知された額を源泉徴収する必要があります。

臨時に支払った賞与に関する賞与支払い届が提出されていなかった。
賞与支払届の提出を行うとともに、社会保険料の源泉徴収および納付を行わなければなりません。

昇給した従業員の報酬月額変更届が提出されていなかった。
昇給月から4ヶ月目に遡り、報酬月額変更届の提出を行わなければなりません。その期間以降の社会保険料の差額の源泉徴収および納付を行う必要があります。

執筆者(特定社会保険労務士 山本多聞)からのアドバイス
―どうしても対応が無理なことについては、交渉の余地があるかもしれません。

多くの会社が年金事務所の調査には不慣れであり、調査の内容に対して反論をせず、言われたことを鵜呑みにしがちです。
しかし、指摘を受けた点には積極的に意見を主張していくことで、最小限の対応で切り抜けられる場合があります。
また、資金繰りの関係などからどうしても対応が無理なことについては、交渉の余地があるかもしれません。
年金事務所の調査については、プロである社会保険労務士への相談をお勧めします。

年金事務所の調査の対象となった際の対応
よくある問題と解決策

Case1

年金事務所の調査の日程がすでに予定のある日になっている。

決策

書面に記載された連絡先に連絡をすれば、日程の調整を行うことができます。ただし、あまり伸ばし伸ばしにはできません。

Case2

調査で指摘を受けた場合、問題が大きくなりそうなポイントがある。

決策

まじめに調査を受けるしかないと申し上げておきます。資料をよく確認すれば事前の手続きなどで補正が可能かもしれません。

Case3

年金事務所の調査は社長が出向く必要があるのか。

解決策

日ごろから社会保険事務を行っている担当者や、社会保険労務士で差し支えありません。

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